ラッキーな犬
劉新権=文
鄒源=イラスト
1匹の犬、正確に言えば1匹の野良犬が、丁先生の家の外の芝生の上で、もう2日も横たわっている。
丁先生はおとといの早朝にその犬を見た。その犬は塀沿いに歩いて来て、足を引きずり、体はうす汚れ、頭を垂れて、しょぼくれた様子であった。丁先生は嫌そうにこれを避けて通り、思わず鼻を覆ったほどだった。午後、仕事を終えて家に戻った時、その犬は芝生の上に横たわり、悲しそうに道行く人を一人一人見つめていた。
「どこの家の犬かしら、誰も面倒を見ていないようだけど」と、昼ご飯を食べている時、妻が言った。
翌日、その犬はまったく動かず同じ場所にいた。昼ご飯を食べている時、妻は、「あの犬、本当にかわいそう。死んじゃうんじゃないかしら」と言った。
夜ご飯を食べている時、妻はまたその犬のことを言い出し、丁先生に明日犬小屋を買ってくるように言った。
丁先生は茶碗から顔を上げ、口を動かすのを止めて、いぶかしむような目つきで妻を見た。
「あなた、あの犬を見た?」妻は少し感情的になり、立ち上って窓の前に行き、「人間って、どうしてこんなに冷たいのかしら」と言った。
「分かった、分かった、明日犬小屋を買いに行くよ」
丁先生は黄色い犬小屋を買ってきた。妻は息も絶え絶えの犬を抱えて家に戻ってきた。
洗って、傷の手当てをし、エサをやり、妻はてんてこ舞いの忙しさだった。腰も背中も痛んだが、心は安らかだった。
野良犬は本当にラッキーだった。丁先生の妻の丁寧な世話によって、見違えるように立派になった。毎日、丁先生が妻と連れ立って散歩に出掛ける時、格格(ガガ)―丁先生が犬に付けた名前―はいつもはしゃいで前に後にと駆け回り、とても愛らしかった。同僚たちは丁先生の妻は賢く思いやりがあると褒め、「幸せファミリー」選出の際には、丁先生の家族が満場一致で選ばれた。
丁先生は幸福に浸っていた。
この日、仕事を終えて家に帰ろうとすると、丁先生は受付の入り口のところでやせ細った彼の父の姿を見つけた。
「父さん、どうして学校に来たの? 学校には来ないでって言ったじゃないか」。彼は父親を受付の後ろの壁際に連れて行った。
「母さんが病気なんだ」と、父は口ごもって言った。
「毎月100元送金しているだろ?」
「母さんは1カ月に数百元の薬代がかかるんだ」
「兄さんに頼めないの?」
「お前の兄さんはもう1年以上も失業してるんだ。頼めないだろ?」
授業終了を知らせるベルが鳴った。丁先生は財布から200元を出して、父親に渡した。「授業がもう終わるから、早く帰ってくれよ」
「母さんはもう長いこと病気なんだ。お前に会いたがっているから、時間をつくって会いに来てくれ」
「莎莎が今出張だから、格格にご飯をあげる人がいないんだ」と言って、丁先生は身を翻して去っていった。
「格格って誰だい?」と、丁先生の背中に父は大声で問い掛けた。
翻訳にあたって
日本人にとっては、丁先生の親に対する態度は「あるある」かもしれないが、家族、特に親をとても大切にする中国の人にしてみれば、親に対しこのような態度を取るのは、極めて非道徳的なことだと言える。中国では、「劳动模范(模範労働者)」のように、勤務態度が非常に良い人、人々の道徳的手本になるような人を選んで名誉称号を与えたり、表彰したりする習慣があり、文中に出て来る「幸せファミリー」もこのような名誉称号の一つ。なお、中国では学校の先生は学校の敷地内にある教職員住宅に住んでいることが多く、昼休みも比較的長いため、昼休みは家に帰って食事し、休憩することが多い。 (福井ゆり子)
幸运的狗
作者=刘新权
插图=邹源
一只狗——准确地说——一只流浪狗(1)躺在丁老师家外面的草坪上两天了。
丁老师前天早晨就看到了那只狗。那只狗沿着墙根走来,一瘸一拐,身上脏稀稀的,耷拉着脑袋,无精打采(2)的样子。丁老师厌恶地绕开它,甚至还下意识(3)地用手捂了捂鼻子。中午下班回家的时候,那只狗躺在草坪上了,哀怜地望着每一个路过的人。
“不晓得那是谁家的狗,也没人管。”吃午饭的时候妻子说。
第二天,那只狗躺在原地一动不动。吃午饭的时候,妻子说:“那只狗真可怜,只怕快要死了。”
吃晚饭的时候,妻子又说起那只狗,吩咐丁老师:“明天去买只狗窝(4)来。”
丁老师把头从饭碗里抬起来,停止了咀嚼,满脸狐疑(5)地看着妻子。
“你看到了那只狗吗?”妻子有点激动,站起来走到窗前,“人啊,为什么这么冷漠?”
“好,好,我明天就去买狗窝。”
丁老师买了一只金黄色的狗窝。妻子将奄奄一息(6)的狗抱回了家。
洗澡、疗伤、喂食,妻子忙得不可开交,虽然腰酸背疼,可心里舒坦。
流浪狗真是三生有幸,在丁老师妻子的悉心照料下,脱胎换骨,焕然一新。每天丁老师携妻外出散步,格格——丁老师给狗起的名字——必身前身后撒欢儿跑(7),极逗人爱。同事们都夸丁老师妻子贤慧,有爱心,在评选五好家庭时,一致同意丁老师家当选。
丁老师沉浸在幸福之中。
这天下班回家,丁老师在传达室门口遇上了瘦骨嶙峋(8)的老父亲。
“爸,你怎么找到学校来了,不是叫你不要来吗?”他把父亲领到传达室的后墙下。
“你妈病了,”父亲嗫嚅着。
“我不是每月给了100元?”
“你妈一个月要吃几百元钱的药。”
“你不能找我哥?”
“你哥下岗一年多了,好意思开口?”
下课铃响了,丁老师从钱包里抽出200元递给父亲,“要放学了,你快走吧。”
“你妈病好久了,想你呢,你抽个空回去看看。”
“莎莎出差了,没人给格格弄饭吃。”丁老师说完,一转身走了。
“格格是谁呀?”父亲望着丁老师的背影,大声问了一句。
(1) 流浪狗 野良犬
(2) 无精打采 しょぼくれる
(3) 下意识 思わず、無意識のうちに
(4) 狗窝 犬小屋
(5) 狐疑 いぶかしむ
(6) 奄奄一息 息も絶え絶えに
(7) 撒欢儿跑 はしゃいで駆け回る
(8) 瘦骨嶙峋 やせ細る